今回、国際糖尿病連合(IDF)の第25回リスボン会議に12月6・7日に参加しました。IDFは1950年に設立され、糖尿病の迫りくる世界的リスクに対応するために170 の国と、地域にある 230 を超える全国糖尿病協会の統括組織として世界の糖尿病コミュニティをリードしています。会議のオープニングセレモニーでは、ポルトガルの科学教育環境大臣やリスボン市長の挨拶を世界中から集まった参加者と共に拝聴しました。以下共同研究者の琉球大学病院看護部の呉屋氏からの報告です。
(文責:具志堅美智子)
琉球大学病院看護部 呉屋秀憲
私は琉球大学病院の8階西病棟看護師です。2016年に日本糖尿病療養指導士の資格を得て糖尿病治療における生活指導のエキスパートとして働いています。
今回、国際糖尿病連合(IDF)に参加しました。私達の研究内容は、「ペン型注入器を介した血液曝露リスクに関する臨床看護師の認識調査」です。個人のインスリンペンには血液曝露リスクがあり誤注射の際にはそれを認識した対処が必要ですが、当院の約半数の看護師にその認識が欠如していることを明らかにしました。これまで、新人教育で情報配信してきましたが、それだけでは不十分であることが判明しました。今後、全国調査を進めていく予定です。
初めての国際学会に参加して印象に残ったことは、インスリンは世界的に高価な薬剤であり、ペン型注入器は一般的に普及しているデバイスではないという現実でした。同時に、日本の医療体制の充実さを改めて認識することができました。また、開催されたセッションでは「戦争中の糖尿病:最近のウクライナ経験」「糖尿病と災害」に参加しました。医療環境が全て破壊されたウクライナでの糖尿病ケア復興体験からの学びが共有されました。糖尿病は災害医療では後回しにされがちな慢性疾患ですが、戦争は人的災害、地震や津波そしてCOVID-19は自然災害として、どちらも対応に向けた先駆けたプランニングが必要であることを学びました。
会議の合間には世界遺産シントラまで足をのばし、アラビアやゴシック建築の混在した美しいペナ宮殿を訪れました。イスラム勢力との攻防を免れなかったポルトガルの地理的位置や歴史を理解することができました。また、リスボン市内ではジェロニモス修道院を訪ねました。そこでは贅を尽くしたマヌエル建築様式に圧倒され、大航海時代に繁栄したポルトガルとキリスト教文化の強い存在を肌で感じることができました。当時、ポルトガルに巨額の富をもたらした航海者ヴァスコ・ダ・ガマはこの修道院で眠っています。
最後に、今回の国際会議参加を支援して頂きました琉球大学病院看護部および研究指導して頂きました保健学科教員の具志堅美智子先生に深謝します。私の研究は、臨床看護実践の中で芽生えた小さな疑問を追求した実践研究ですが、国内外の先行文献を把握し、適切な統計解析を用いそして英文にチャレンジすることで、国内発表に留まらず、国際会議の舞台にも飛び出せる可能性を与えて頂きました。世界には様々な言語がありますが「糖尿病ケア」のキーワードで、言語や国境を越えて世界の人々と同じ目標に向かう連帯感を感じることができた貴重な体験でした。看護師が自分の専門性を追求し、その実践力を目に見える形とするためにも、研究は不可欠です。看護実践現場と教育現場の研究協力体制構築が今後さらに発展し、専門看護師の活躍の場が拡大できることを願っています。