トンガ王国出身のSeini Siahi Talanoafoou Fifitaさんは、JICA長期研修員として保健学研究科博士後期課程に在籍しています。彼女の研究テーマは、診断されていない高血圧です。高血圧は、心臓病や脳血管障害を引き起こすので、早期の診断・治療が求められます。しかしながら、世界では、高血圧に罹患しているおおよそ半数は、診断を受けていないため、自分が高血圧であることに気づいていません。トンガ王国において、高血圧は主な健康課題となっていますが、高血圧に罹患していることに気づいていない人がどの程度存在するのか、分かっていませんでした。そのため、Seiniさんはトンガ王国に住む成人473名を対象に、診断されていない高血圧の有病率と関連する因子について研究を実施しました。研究成果の概要は、論文の抄録として下に示した通りです。研究成果は国際ジャーナルであるTropical Medicine and Healthに掲載されました。また、マレーシアで開催されたアジア太平洋地区公衆衛生学校連合体の学術大会(APACPH2023)や東京で開催されたグローバルヘルス合同大会2023においても発表されました。今後、Seiniさんの研究成果がトンガ王国の保健政策に反映されて、住民の健康増進に貢献できることを願っています。
文責:野中大輔(指導教員)
左:Seini Siahi Talanoafoou Fifitaさん 右:野中大輔准教授(指導教員)
グローバルヘルス合同大会2023におけるポスター発表
トンガの調査チーム(向かって右から2人目がセイニ氏)
家庭訪問による調査(セイニ氏提供)
論文情報:
Fifita SST, Nonaka D, Cama MT, Filise MI. Factors associated with undiagnosed hypertension among Tongan adults: a cross-sectional study. Trop Med Health. 2024 Jan 2;52(1):4. doi: 10.1186/s41182-023-00570-4.
論文の抄録(日本語訳):
背景
高血圧は世界中で多くの早期死亡の原因となっている。しかし、多くの高血圧患者は診断を受けていない。トンガは高血圧患者が増加しているので、未診断の高血圧患者も増加している可能性がある。本研究の目的は、トンガ人成人における未診断高血圧の有病率とその関連因子を評価することである。
方法
この横断研究は、2023年2月から3月にかけて世帯訪問を行い、電子調査票とデジタル血圧計を用いて473人から収集したデータを用いた。包含基準は、年齢18~65歳、村に6ヵ月以上居住、妊娠していないこととした。未診断高血圧と予測変数との関連を評価するために、EZRソフトウェアを用いてフィッシャーの正確確率検定と混合効果ロジスティック回帰分析を行った。
結果 未診断高血圧の有病率は22.4%(106/473人)であった。フィッシャーの正確確率検定で未診断高血圧と有意に関連した5つの変数を多変量ロジスティック回帰に含めた。その結果、3つの変数が有意であった。第1に、血圧を測定したことがない参加者は、最近血圧を測定した参加者に比べて有病率が高かった(33.3 対19.1%;オッズ比:2.24)。第2に、高血圧発症のリスクを認識していない参加者は、認識している参加者に比べて、診断されていない高血圧を有するオッズが有意に高かった(27.9% 対16.7%;オッズ比:1.81)。第3に、中年(30~49歳)および高齢(50~65歳)の参加者は、18~29歳の参加者と比較して、未診断の高血圧であるオッズが有意に高かった(30.0%および23.7% 対11.8%;オッズ比:3.58および3.38対1.00)。
結論
未診断の高血圧の有病率はトンガ人成人の間で問題となるレベルである。この結果は、トンガの高血圧に対処するためにさらなる研究を行い、現在の公衆衛生活動を見直す必要性を示唆している。未診断の高血圧は、血圧測定の経験がないこと、高血圧に対する認識不足、年齢と関連していた。トンガ政府は、血圧測定を受ける機会を増やし、人々の意識を向上させるべきである